「え!?僕がISの担当ですか?」
入社2年目のある日。ミーティングでの上司の言葉に、一瞬耳を疑いました。なぜなら、ISとはトヨタ自動車の高級車「レクサス」のこと。最先端技術と高級感溢れるデザインがつまったトヨタ自動車の最高傑作・・・。それだけでもプレッシャーだというのに、任されたのは自動車内装部品の中でも、運転手の目によくつく、ドアのアームレストという肘掛け部分。人の手に直接触れるところですから、小さな凹みやキズはもちろん、触れたときの質感や表面のムラなど、細かなところまで注意をしなくてはいけません。しかも、責任者に選ばれるのは今回が初めて。仕入先との金型仕様・構造の打ち合わせから金型による射出成形、客先での車輌への組み付け確認から打ち合せまで、成形担当としてはひとりで担当しなければなりません。
「正直、まだ金型の構造もしっかり理解していないし、わからないことだらけだよ」
不安いっぱいの中、僕のレクサス奮闘記が始まったのです。
「もっとたくさん流し込めば・・・あ、溢れた」
金型からはみ出した樹脂をみて、思わずこぼれるため息。何度挑戦しても、金型にお客様の要求品質を満たす適量の樹脂が流せない。成形において、金型に樹脂を流し込む「量」は、成形品の品質を左右するほど重要です。もちろん図面には大まかな基準量が示されていますが、樹脂は熱を加えると収縮してしまうので目安程度。量が多いだけで型と型の間から樹脂がはみ出すし、量を減らせば当然のことながら、品質が満たせず、上手く成形できない。ISのアームレストならではの適切な量がわかるまでに何度も失敗を繰り返しました。
「絶対次のトライで成功してやる!」
毎回あらゆる試作方法をリストにして挑みましたが・・・惨敗。時には、樹脂を流す速度が早すぎて、表面にムラができてしまうときもありました。カタチや大きさだけでなく、品質にも配慮した流し方を探し出すのは、まさに職人技。繰り返して挑んだ8回目のトライ。僕はついに、お客様の要求品質を満たすアームレストの成形に成功しました!
完成したパーツを手に、お客様のいる九州へ。実際にレクサスの車体にはめ込んでみました。大きさや、はまり具合は問題なくクリア。「やった!」と僕が心でガッツポ−ズをとった瞬間、お客様の顔が曇りました。
「これはダメだ。トリム(内張り)との間に隙間がある」
お客様が指をさした所にペンライトをかざし、よく見ると、若干の隙間がありました。ものさしで図ると、トリムとの隙間が図面より0.5mm程広くなっていました!日常生活で0.5mmなんて気にならないけれど、自動車製造は0.1mm単位の世界。正直ショックでした。何度も失敗をして、やっと見えてきたゴールが、一瞬にして真っ暗になったのです。しかし、ここでヘコタレてはいられません。
「僕に仕事を任せてくれた上司や先輩、協力頂いた仕入先の方のためにも、諦められない」
作り直しを余儀なくされた僕は会社へ戻り、仕入先へ指示を出し、金型を削り、型を改造するところから再びスタート。お客様との打ち合わせを繰り返し、大きさ、品質、表面のムラなど細部にわたって改善。とうとう、お客様も納得頂けるアームレストを納品することができました。その時は、お客様に納得して頂けた満足感とともに、仕事をやりきった達成感が湧いてきました。
その後、僕の成形したパーツは大量生産され、レクサスの一部として世界中を走り回っています。「自分の任された仕事って、すごいことだったんだな」と実感します。つい、友達にも自慢げに話しちゃうんですよね。
「すげー。おまえ、レクサスつくってるの!?」
と、言われる瞬間は嬉しいです(笑)。
今携っているのは、新規開発車のコンソール(エアコンなどのスイッチ類をまとめた操作盤)のまわりの内装部品。次の生産に向け、トライを繰り返しています。以前に比べ、ISで培った技術と粘り強さが、今の自分への自信にもつながるように思います。
僕の相棒は、ペンライトとものさし。この2つは、組み付け時や不具合確認のチェックに欠かせないので、現場に行く際は必ず持っていきますね。ペンライトは、使い方によって光の色を変えています。鉄鋼物は光が反射しやすいので黄色い光、自動車部品にはクッキリみえるよう白い光を使用。ものさしは、部品に合わせて湾曲する優れものです。0.1mm単位のこの世界では手放せませんね。






